文化史シリーズ ⑧(古代→中世・11世紀末〜12世紀)
なぜ文化が地方へ広がった?
前回(国風)のつづき
- 国風文化は、あくまで京都の貴族のための文化だった。
- 11世紀末、白河上皇の院政(1086)が始まると、武士・大寺院・地方の豪族が力をもち始める。
- 文化の担い手が広がる——貴族だけでなく武士・庶民、そして地方へ。それが院政期の文化。
?素朴な疑問
- なぜ東北の平泉に、京都のような金色のお堂が建った?
- なぜ動物のらくがきのような絵(鳥獣戯画)が残っている?
→ カギは「担い手の広がり(武士・庶民・地方)と、浄土信仰の全国化」。
地方へ
中尊寺金色堂(平泉)・富貴寺大堂(豊後)・白水阿弥陀堂(陸奥)。
庶民の芸能
今様・田楽・猿楽。上皇までが熱中した(梁塵秘抄)。
絵巻物
源氏物語絵巻・信貴山縁起・鳥獣戯画。物語を絵で語る。
今日のルート:院政と新しい担い手 → 地方の阿弥陀堂・絵巻物 → 今様と軍記・説話 → 国風文化と対比
ゴール=院政期を「古代から中世への過渡期の文化」として位置づけられる
① 背景 ―― なぜこの文化が生まれた?
なぜ担い手が広がった?
院政のもとで、武士・大寺院・地方の豪族が力をもったから
- 1086年 白河上皇が院政を始める。院のまわりに武士(北面の武士)や新興勢力が集まった。
- 上皇は六勝寺(法勝寺など)を造営し、熊野詣・高野詣をくり返して信仰を示した。
- 地方の豪族が国風の文化を取り入れ、自分の領地に阿弥陀堂を建てるようになる。
- 奥州藤原氏は金や馬の富で平泉に都のような町を築いた(中尊寺金色堂)。
- 都では庶民の芸能(今様・田楽)が流行し、後白河上皇が『梁塵秘抄』に今様を集めた。
+高校院政期は古代から中世への過渡期。文化の性格=貴族+武士+庶民/中央+地方の混合。歴史物語『大鏡』、軍記『将門記』『陸奥話記』、説話『今昔物語集』の登場は、書かれる対象が貴族以外へ広がった証拠として読む。
文化の担い手が広がる
この時代のおもな出来事
12世紀前半
源氏物語絵巻・鳥獣戯画など絵巻物の名作
院政期の文化は「広がりの文化」。地域が広がり、身分が広がり、題材が広がった。
② かたちに見る ―― 建築・美術
地方の阿弥陀堂と絵巻物
都の文化が地方へ運ばれ、絵巻物が全盛になる
- 建築中尊寺金色堂(岩手・平泉/1124・藤原清衡)=奥州藤原氏の富を示す金色の阿弥陀堂。
- 建築富貴寺大堂(大分)/白水阿弥陀堂(福島)=地方の豪族が建てた阿弥陀堂。
- 絵画絵巻物=物語を絵と文で横長に展開する日本独自の形式。この時期に全盛。
- 絵画『源氏物語絵巻』=引目鉤鼻の顔、吹抜屋台で室内を上から見せる。
- 絵画『信貴山縁起絵巻』『鳥獣戯画』=庶民や動物が主役。『伴大納言絵巻』。
- 工芸平家納経(厳島神社)・扇面古写経=美しく飾った経。武士も仏教文化の担い手に。
絵巻物のしくみ
建築中尊寺金色堂富貴寺大堂白水阿弥陀堂六勝寺三十三間堂の前身
絵巻物源氏物語絵巻鳥獣戯画信貴山縁起絵巻伴大納言絵巻吹抜屋台引目鉤鼻
+高校(大学入試)中尊寺金色堂は金・馬・北方交易の富を背景にもつ(世界遺産「平泉」)。絵巻物は大和絵の技法を用い、のちの絵解き・掛幅絵へつながる。装飾経(平家納経)は平清盛が厳島神社に納めたもので、武士の宗教文化の初例。
地方の阿弥陀堂と、全盛期の絵巻物。この2つで院政期は見分けられる。
③ ことばと心 ―― 文学・学問・宗教・芸能
今様と、軍記・説話のはじまり
院政期の文化の3方向
庶民の歌と、武士の戦いが文学になった
- 芸能今様=当時の流行歌。後白河上皇が夢中になり『梁塵秘抄』に集めた。
- 芸能田楽(田植えの芸)・猿楽(滑稽な芸)=のちの能・狂言のもと。
- 文学『大鏡』=かな書きの歴史物語。藤原道長の時代を回想する形で描く。
- 文学『将門記』『陸奥話記』=軍記物語のはじまり。武士の戦いが題材になった。
- 文学『今昔物語集』=インド・中国・日本の説話1000余話。庶民の姿が生き生きと描かれる。
- 宗教熊野詣・高野詣が盛ん。浄土信仰が身分をこえて全国へ広がった。
文学大鏡今昔物語集将門記陸奥話記歴史物語軍記物語説話
+高校(大学入試)『大鏡』は四鏡(大鏡・今鏡・水鏡・増鏡)の最初。『今昔物語集』は芥川龍之介『羅生門』の素材にもなった。軍記物語は院政期の『将門記』→鎌倉の『平家物語』→南北朝の『太平記』と発展する。
今様・説話・軍記——書かれる人が貴族から庶民・武士へ広がったことが、文学に表れている。
④ となりの時代とくらべる ―― 対比
国風文化と院政期の文化はどう違う?
| 観点 | 国風文化 | 院政期の文化 |
|---|
| 時期・政治 | 10〜11世紀・摂関政治 | 11世紀末〜12世紀・院政 |
| 担い手 | 京都の貴族(摂関家) | 貴族+武士・庶民、地方の豪族 |
| 地域 | 京都が中心 | 平泉・豊後・陸奥など全国へ |
| 建築 | 平等院鳳凰堂(宇治) | 中尊寺金色堂・富貴寺大堂・白水阿弥陀堂 |
| 絵画 | 大和絵 | 絵巻物の全盛(源氏物語絵巻・鳥獣戯画) |
| 文学 | かな文学(源氏物語・枕草子) | 歴史物語(大鏡)・軍記・説話(今昔物語集) |
| 芸能 | 神楽・田楽の芽 | 今様(梁塵秘抄)・田楽・猿楽の流行 |
| 宗教 | 貴族の浄土信仰 | 浄土信仰の全国化・熊野詣 |
広がりの方向
まちがえやすい!×
平等院鳳凰堂=国風(宇治)/中尊寺金色堂=院政期(平泉)。どちらも阿弥陀堂で紛れやすい。
×
『大鏡』は院政期の歴史物語、『源氏物語』は国風の物語。ジャンルも時代も別。
×
絵巻物の全盛は院政期。技法は大和絵だが、時代を国風と答えないこと。
出入試ではこう出る(対比の出題例)
- 中尊寺金色堂の写真+「だれが何の富で建てたか」→ 奥州藤原氏・金や馬の富。
- 記述「院政期に文化の担い手はどう変わったか」→ 貴族から武士・庶民、京都から地方へ広がった。
- 絵巻物の名と内容の組み合わせ(鳥獣戯画=動物の墨絵/信貴山縁起=庶民の姿)。
院政期は古代と中世のつなぎ目。「国風文化が全国・全身分へ広がった段階」と覚える。
⑤ まとめ ―― ここが問われる
院政期の文化の急所
院政期の文化=担い手が武士・庶民・地方へ広がった過渡期の文化。金色堂と絵巻物が代表。
要入試で問われる急所
- 中尊寺金色堂=奥州藤原氏・平泉は写真・地図つきで頻出。
- 記述「担い手の広がり」を身分(貴族→武士・庶民)と地域(京都→地方)の2軸で書く。
- 今様=梁塵秘抄=後白河上皇の3点セット。
- 絵巻物の作品名と内容。とくに鳥獣戯画。
次この文化はどこへつながる?
- 源平の争乱 → 鎌倉幕府。武士が政治の主役になり鎌倉文化へ(→ 文化史⑨)。
- 軍記物語は『平家物語』で実を結ぶ。
- 浄土信仰は法然・親鸞の新しい仏教へ発展する。
この回の重要語(これだけは言えるように)
建築・美術中尊寺金色堂富貴寺大堂白水阿弥陀堂絵巻物源氏物語絵巻鳥獣戯画平家納経
文学・芸能大鏡今昔物語集将門記今様梁塵秘抄田楽猿楽熊野詣
Q一問一答(答えは右)
11086年に院政を始めた上皇は?白河上皇
2平泉に金色堂を建てた一族は?奥州藤原氏
3その金色堂がある寺は?中尊寺
4大分県にある阿弥陀堂は?富貴寺大堂
5物語を絵と文で横長に描いたものは?絵巻物
6動物を人に見立てた墨絵の絵巻は?鳥獣戯画
7屋根を描かず室内を見せる技法は?吹抜屋台
8当時の流行歌を何という?今様
9今様を集めた書物は?梁塵秘抄
10それを編んだ上皇は?後白河上皇
11藤原道長の時代を描いた歴史物語は?大鏡
121000余話を収めた説話集は?今昔物語集