文化史シリーズ ⑨(中世・12世紀末〜14世紀)
なぜ美術が力強くなった?
前回(院政期)のつづき
- 院政期に、文化の担い手はすでに武士・庶民へ広がっていた。
- そして源頼朝が鎌倉に幕府を開き、武士が政治の主役になる。
- 武士の気風=質実・写実・力強さ。そこに宋の文化と、庶民に開かれた新しい仏教が加わる。
?素朴な疑問
- なぜ金剛力士像は、あんなに筋肉が強調されている?
- なぜこの時代に新しい宗派が一気に6つも生まれた?
→ カギは「武士の気風・宋の文化・鎌倉新仏教」。
写実と力強さ
東大寺南大門・金剛力士像。運慶・快慶の慶派彫刻。
新しい仏教
念仏・題目・座禅。だれでも救われる道が示された。
二本立て
公家の伝統文化(新古今)と武家の文化(軍記)が並ぶ。
今日のルート:武士の時代と宋の文化 → 東大寺南大門・運慶快慶 → 新仏教6宗と軍記・随筆 → 院政期と対比
ゴール=公家文化と武家文化が並び立つ構造をつかみ、新仏教6宗を区別できる
① 背景 ―― なぜこの文化が生まれた?
なぜ武士と宋が文化を変えた?
政治の主役が変わり、宋との交流が続いたから
- 源平の争乱で焼けた東大寺を、重源が宋の技術(大仏様)を用いて再建した。
- 武士は質実・写実を好み、公家は伝統を守った。=公家文化と武家文化が並び立つ。
- 禅宗が宋から伝わり、座禅で自分をきたえる教えが武士の気風に合って広まった。
- 戦乱・飢饉・地震が続き、人々はだれでも救われる道を求めた。
- 念仏(法然・親鸞)・踊念仏(一遍)・題目(日蓮)など、実行しやすい教えが民衆に広がった。
+高校鎌倉文化は公家文化の継承+武家文化+庶民仏教+宋元文化の4層構造。旧仏教側も貞慶・明恵(戒律の復興)、叡尊・忍性(社会事業)で応じた。幕府は臨済宗を保護し、五山の制度へつながる(禅と政治の結びつき)。
鎌倉文化の4つの層
この時代のおもな出来事
1274・1281年
元寇。『蒙古襲来絵詞』が描かれる
鎌倉文化は「武士+宋+庶民」が公家文化に加わった文化。だから力強く、幅が広い。
② かたちに見る ―― 建築・美術
東大寺南大門と運慶・快慶
宋の建築技術+写実的で力強い彫刻
- 建築東大寺南大門=宋の大仏様。太い部材を組んで見せる豪快な構造。重源が再建を指揮。
- 建築円覚寺舎利殿=禅宗様(唐様)。屋根の反りが強く、細かい部材を使う。
- 建築蓮華王院三十三間堂=和様。観心寺金堂などは折衷様。
- 彫刻東大寺南大門金剛力士像=運慶・快慶ら慶派の作。筋肉と表情の写実、玉眼を用いる。
- 彫刻興福寺無著・世親像(運慶)=人物の内面までとらえた肖像彫刻。
- 彫刻六波羅蜜寺空也上人像(康勝)=口から念仏が仏の形で出る表現。
- 絵画似絵(写実的な肖像画)=藤原隆信『源頼朝像』(伝)。禅僧の肖像=頂相。
- 絵画『蒙古襲来絵詞』『一遍上人絵伝』=合戦や布教を描く絵巻。
3つの建築様式
建築東大寺南大門大仏様禅宗様円覚寺舎利殿和様折衷様重源
彫刻金剛力士像運慶快慶慶派玉眼無著・世親像空也上人像
絵画・工芸似絵源頼朝像頂相蒙古襲来絵詞一遍上人絵伝長船長光
+高校(大学入試)玉眼(水晶を目に入れる)は鎌倉彫刻の技法上の目印。慶派は南都(奈良)の伝統を継ぎ、天平の写実を復活させた点が重要。建築は大仏様=東大寺南大門/禅宗様=円覚寺舎利殿の2点だけは確実に。
鎌倉美術のキーワードは写実・力強さ・宋の技術。国風のおだやかさとは正反対。
③ ことばと心 ―― 文学・学問・宗教・芸能
新仏教6宗と、無常の文学
鎌倉新仏教6宗(3グループで覚える)
| 宗派 | 開祖 | 教え・中心寺院 |
| 浄土宗 | 法然 | 専修念仏=ただ「南無阿弥陀仏」を唱える/知恩院 |
| 浄土真宗 | 親鸞 | 悪人正機=自分の力を頼らぬ者こそ救われる/本願寺 |
| 時宗 | 一遍 | 踊念仏で全国を遊行/清浄光寺(遊行寺) |
| 日蓮宗 | 日蓮 | 題目=「南無妙法蓮華経」/法華経を絶対とする/久遠寺 |
| 臨済宗 | 栄西 | 座禅と公案(問答)/幕府の保護/建仁寺 |
| 曹洞宗 | 道元 | 只管打坐=ひたすら座る/地方の武士へ/永平寺 |
念仏(3宗)/題目(1宗)/座禅(2宗)の3グループで覚えると混ざらない。
だれでも実行できる教え/戦乱の世を見つめる文学
- 宗教念仏=浄土宗(法然)・浄土真宗(親鸞)・時宗(一遍)。題目=日蓮宗(日蓮)。
- 宗教座禅=臨済宗(栄西)・曹洞宗(道元)。栄西は『興禅護国論』、道元は『正法眼蔵』。
- 宗教旧仏教の立て直し=明恵・貞慶(戒律)、叡尊・忍性(貧しい人・病人の救済)。
- 文学『新古今和歌集』(1205)=後鳥羽上皇の命、藤原定家ら撰。技巧的で余情のある歌風。
- 文学『平家物語』=軍記物語の最高峰。琵琶法師が語り広めた(平曲)。
- 文学『方丈記』(鴨長明)・『徒然草』(吉田兼好)=無常観の随筆。
- 学問『愚管抄』(慈円)=道理で歴史を説く。『吾妻鏡』=幕府の歴史書。金沢文庫(北条実時)。
新仏教法然親鸞一遍日蓮栄西道元専修念仏悪人正機踊念仏題目只管打坐
文学新古今和歌集藤原定家平家物語琵琶法師方丈記徒然草鴨長明吉田兼好
+高校(大学入試)各宗のキーワード=法然専修念仏/親鸞悪人正機・『歎異抄』(唯円)/一遍遊行・踊念仏/日蓮『立正安国論』・他宗批判/栄西公案/道元只管打坐。『新古今和歌集』の技法=本歌取り。
新仏教は「念仏・題目・座禅」の3グループで整理。文学は無常観がキーワード。
④ となりの時代とくらべる ―― 対比
院政期と鎌倉文化はどう違う?
| 観点 | 院政期の文化 | 鎌倉文化 |
|---|
| 政治 | 院政(上皇) | 鎌倉幕府(武士が政治の主役) |
| 担い手 | 貴族+武士・庶民(広がり始め) | 公家文化と武家文化が並び立つ+庶民 |
| 外国の影響 | ほぼ無し(国内で展開) | 宋(大仏様・禅宗) |
| 建築 | 地方の阿弥陀堂(金色堂) | 大仏様(東大寺南大門)・禅宗様 |
| 彫刻 | 定朝様のおだやかな仏像 | 運慶・快慶の写実的で力強い像 |
| 宗教 | 浄土信仰の全国化・熊野詣 | 新仏教6宗(念仏・題目・座禅) |
| 文学 | 大鏡・今昔物語集・今様 | 新古今和歌集・平家物語・方丈記・徒然草 |
| 絵画 | 絵巻物の全盛 | 似絵・頂相・蒙古襲来絵詞 |
仏像の性格が反転する
まちがえやすい!×
栄西=臨済宗(幕府に近い)/道元=曹洞宗(永平寺・地方の武士)。セットで覚える。
×
定朝=国風(寄木造)/運慶・快慶=鎌倉(写実)。仏師の名で時代が決まる。
×
古今和歌集=国風/新古今和歌集=鎌倉。「新」の一字で時代が変わる。
出入試ではこう出る(対比の出題例)
- 金剛力士像の写真+「特徴を書け」→ 筋肉や表情が写実的で力強い(玉眼を使う)。
- 記述「なぜ新しい仏教が広まったか」→ 戦乱や災害で不安が広がり、だれでも実行できる教えが求められた。
- 宗派と開祖の組み合わせ(6宗)+「念仏・題目・座禅」の仕分け。
鎌倉文化の見分け方は「力強い・写実・宋・新仏教」。院政期の「広がり」から一段進んだ段階。
鎌倉文化=武士の気風・宋の文化・庶民の仏教が、公家の伝統文化に重なった文化。
要入試で問われる急所
- 新仏教6宗と開祖の組み合わせは最頻出。3グループで覚える。
- 東大寺南大門(大仏様)・金剛力士像(運慶・快慶)の写真判別。
- 『平家物語』=琵琶法師が語った/『方丈記』『徒然草』=無常観。
- 記述「なぜ禅宗が武士に広まったか」→ 座禅で自分をきたえる教えが武士の気風に合ったから。
次この文化はどこへつながる?
- 南北朝の動乱を経て、足利義満の時代に北山文化へ(→ 文化史⑩)。
- 禅宗は幕府の保護を受け、五山文学・水墨画・庭園を生む土台になる。
- 軍記物語は『太平記』へ、芸能は能・狂言へ発展する。
この回の重要語(これだけは言えるように)
美術東大寺南大門大仏様禅宗様金剛力士像運慶快慶玉眼似絵蒙古襲来絵詞
宗教・文学浄土宗浄土真宗時宗日蓮宗臨済宗曹洞宗新古今和歌集平家物語方丈記徒然草
Q一問一答(答えは右)
1東大寺南大門の建築様式は?大仏様
2東大寺の再建を指揮した僧は?重源
3金剛力士像を作った2人の仏師は?運慶・快慶
4水晶を目に入れる彫刻の技法は?玉眼
5浄土宗を開いたのは?法然
6悪人正機を説いたのは?親鸞
7踊念仏で全国を回ったのは?一遍
8「南無妙法蓮華経」を唱える宗派は?日蓮宗
9臨済宗・曹洞宗を伝えた2人は?栄西・道元
10琵琶法師が語り広めた軍記物語は?平家物語
11鴨長明の随筆は?方丈記
12吉田兼好の随筆は?徒然草