文化史シリーズ ⑭(近世・17世紀末〜18世紀初)
なぜ町人が文化の主役になった?
前回(寛永期)のつづき
- 寛永期までの文化の担い手は将軍・大名・公家・上層の町衆だった。
- 平和が続いて産業と交通が発達すると、上方(大阪・京都)の町人が商売で富をたくわえる。
- お金を持った町人が、自分たちのための文化を買う——それが元禄文化。
?素朴な疑問
- なぜ町人が文化の担い手になれた?
- なぜ心中や金もうけの話が、堂々と作品になった?
→ カギは「上方の町人の経済力と、出版・芝居が商売になったこと」。
町人が主役
上方(大阪・京都)の町人。恋・金・義理人情が主題に。
三大作家
井原西鶴(小説)・松尾芭蕉(俳諧)・近松門左衛門(脚本)。
学問の広がり
朱子学だけでなく古学・国文学・自然科学も発達。
今日のルート:平和と経済成長 → 浮世絵・琳派・歌舞伎 → 三大作家と学問の広がり → 寛永期と対比
ゴール=元禄=上方・町人・現実的、と押さえ、化政文化と区別できる
① 背景 ―― なぜこの文化が生まれた?
なぜ上方で花ひらいた?
大阪・京都に富が集まり、買い手がいたから
- 5代将軍徳川綱吉のころ、戦乱のない時代が続き、産業と都市がめざましく発達した。
- 大阪=「天下の台所」、京都=伝統工芸の町。ここの町人が富を得て、文化の買い手になった。
- 出版が商売として成り立ち、本が売れるように。芝居小屋にも客が集まった。
- 主題も変わる。神仏や武士の理想ではなく、現実の人間(恋・金・義理人情)を描いた。
- 幕府も学問を奨励し(湯島聖堂)、学問は儒学の枠をこえて広がっていく。
+高校元禄期の学問=古学(伊藤仁斎・荻生徂徠)、国文学(契沖『万葉代匠記』)、歴史(新井白石『読史余論』)、自然科学(関孝和の和算・宮崎安貞『農業全書』・貝原益軒『大和本草』・渋川春海の貞享暦)。「町人の文化」と同時に「実証的な学問」が伸びた時期でもある。
なぜ町人が担い手になれたか
この時代のおもな出来事
1682年
井原西鶴『好色一代男』(浮世草子の始まり)
元禄文化は上方の町人が買い手になったから生まれた。経済が文化を動かした典型例。
② かたちに見る ―― 建築・美術
浮世絵・琳派と芝居
町人が買える絵、町人が見る芝居
- 絵画菱川師宣『見返り美人図』=浮世絵の祖。町人の風俗を描いた。
- 絵画尾形光琳『紅白梅図屏風』『燕子花図屏風』=琳派を大成。装飾的で大胆な構図。
- 工芸尾形乾山の陶芸、野々村仁清の色絵。友禅染(宮崎友禅)が着物を彩った。
- 芸能歌舞伎が演劇として完成。坂田藤十郎(上方・和事)、市川団十郎(江戸・荒事)。
- 芸能人形浄瑠璃=竹本義太夫の語り(義太夫節)と近松門左衛門の脚本で全盛に。
- 建築寺社の建築は落ち着き、町人の町家・芝居小屋が都市の風景をつくった。
元禄の三大作家
絵画・工芸菱川師宣見返り美人図尾形光琳紅白梅図屏風燕子花図屏風尾形乾山友禅染
芸能歌舞伎坂田藤十郎市川団十郎和事荒事人形浄瑠璃竹本義太夫
+高校(大学入試)浮世絵はこの時期は肉筆画と墨一色の版画が中心で、多色刷りの錦絵は化政期(鈴木春信以降)。琳派は俵屋宗達(寛永)→ 尾形光琳(元禄)→ 酒井抱一(化政)と続く。歌舞伎の和事・荒事も頻出。
元禄美術は町人が買える絵と、町人が通う芝居。担い手が変われば主題も変わる。
③ ことばと心 ―― 文学・学問・宗教・芸能
三大作家と学問の発達
元禄文化の3本柱
小説・俳諧・脚本、そして実証的な学問
- 文学井原西鶴=浮世草子。『好色一代男』『日本永代蔵』(金もうけの話)『世間胸算用』。
- 文学松尾芭蕉=俳諧を芸術に高めた(蕉風)。『おくのほそ道』。「さび」「かるみ」。
- 文学近松門左衛門=浄瑠璃・歌舞伎の脚本。『曽根崎心中』(世話物)『国性爺合戦』(時代物)。
- 学問古学=伊藤仁斎(京都・古義学)、荻生徂徠(江戸・古文辞学)。孔子の原典に立ち返る。
- 学問自然科学=関孝和(和算)、宮崎安貞『農業全書』、貝原益軒『大和本草』、渋川春海(貞享暦)。
- 学問新井白石『読史余論』『西洋紀聞』。契沖『万葉代匠記』=国文学研究の基礎。
文学井原西鶴浮世草子日本永代蔵松尾芭蕉おくのほそ道蕉風近松門左衛門曽根崎心中
学問古学伊藤仁斎荻生徂徠関孝和宮崎安貞貝原益軒渋川春海新井白石契沖
+高校(大学入試)西鶴の作品分類=好色物・町人物・武家物。芭蕉の紀行文は『おくのほそ道』のほか『野ざらし紀行』。近松の世話物=当時の実際の事件(心中)を脚色したもので、現実を素材にする点が元禄らしさ。
西鶴・芭蕉・近松の3人と、その代表作の組み合わせが最重要。学問も同時に伸びた。
④ となりの時代とくらべる ―― 対比
寛永期と元禄文化はどう違う?
| 観点 | 寛永期の文化 | 元禄文化 |
|---|
| 時期 | 17世紀前半 | 17世紀末〜18世紀初(綱吉のころ) |
| 担い手 | 将軍家・大名・公家・上層町衆 | 上方の町人(大阪・京都) |
| 主題 | 幕府の権威・儒学の秩序 | 現実の恋・金・義理人情 |
| 文学 | 仮名草子・貞門俳諧 | 浮世草子・蕉風俳諧・浄瑠璃の脚本 |
| 美術 | 狩野探幽・俵屋宗達 | 菱川師宣(浮世絵)・尾形光琳 |
| 芸能 | かぶきおどりの名残 | 歌舞伎・人形浄瑠璃の全盛 |
| 学問 | 朱子学が中心 | 古学・国文学・自然科学へ広がる |
| 支えたもの | 幕府の保護 | 町人の経済力(出版・芝居が商売に) |
担い手が下へ広がる
まちがえやすい!×
井原西鶴=小説(浮世草子)/近松門左衛門=脚本(浄瑠璃・歌舞伎)。仕事がちがう。
×
元禄=上方(大阪・京都)/化政=江戸。地図の位置で覚える。
×
浮世絵の祖は菱川師宣(元禄)。北斎・広重は化政。
出入試ではこう出る(対比の出題例)
- 三大作家と代表作の組み合わせ問題(毎年どこかで出る)。
- 記述「なぜ町人が文化の担い手になれたか」→ 産業と都市が発達し、町人が富をたくわえたから。
- 元禄と化政の作品・人物を混ぜた仕分け問題(上方か江戸か)。
元禄文化=上方・町人・現実的。次の化政文化(江戸・庶民・皮肉)とセットで覚える。
元禄文化=上方の町人が担った、現実の人間を描く文化。西鶴・芭蕉・近松が三本柱。
要入試で問われる急所
- 三大作家と代表作は必出。ジャンル(小説・俳諧・脚本)まで区別する。
- 菱川師宣=浮世絵の祖・見返り美人図/尾形光琳=紅白梅図屏風。
- 記述「町人が担い手になれた理由」=経済力を書く。
- 歌舞伎・人形浄瑠璃が芸能として完成した時期であること。
次この文化はどこへつながる?
- 文化の中心が上方から江戸へ移り、化政文化へ(→ 文化史⑮)。
- 浮世絵は多色刷りの錦絵になり、北斎・広重の風景画へ。
- 学問は国学・蘭学へ発展し、幕末の思想につながる。
この回の重要語(これだけは言えるように)
文学・芸能井原西鶴好色一代男日本永代蔵松尾芭蕉おくのほそ道近松門左衛門曽根崎心中歌舞伎人形浄瑠璃
美術・学問菱川師宣見返り美人図尾形光琳紅白梅図屏風友禅染古学関孝和新井白石
Q一問一答(答えは右)
1元禄文化の中心となった地域は?上方(大阪・京都)
2『日本永代蔵』を書いたのは?井原西鶴
3その小説のジャンルは?浮世草子
4『おくのほそ道』の作者は?松尾芭蕉
5『曽根崎心中』を書いたのは?近松門左衛門
6心中など当時の事件を描いた作品を?世話物
7浮世絵の祖とされる画家は?菱川師宣
8その代表作は?見返り美人図
9『紅白梅図屏風』を描いたのは?尾形光琳
10人形浄瑠璃の語りを大成したのは?竹本義太夫
11和算を発展させた数学者は?関孝和
12『万葉代匠記』を著したのは?契沖