文化史シリーズ ⑮(近世・19世紀前半)
なぜ文化の中心が江戸に移った?
前回(元禄)のつづき
- 元禄文化は上方の町人の文化だった。
- その後の100年で江戸は人口約100万の大都市に成長し、経済も文化も江戸が中心になる。
- 江戸の庶民が主役/出版と交通で全国へ——それが化政文化。
?素朴な疑問
- なぜ庶民が絵(浮世絵)を買えるようになった?
- なぜ政治を皮肉る川柳や狂歌が流行した?
→ カギは「江戸の庶民・出版と交通の発達・皮肉と笑い」。
江戸が中心
上方から江戸へ。町人だけでなく農村にも文化が届いた。
錦絵
多色刷り版画で安く大量に。北斎・広重の風景画。
国学と蘭学
本居宣長『古事記伝』/杉田玄白『解体新書』。寺子屋も普及。
今日のルート:江戸の成長と出版 → 錦絵(北斎・広重) → 滑稽本・国学・蘭学 → 元禄と対比
ゴール=元禄と化政を確実に区別し、浮世絵の作者と作品を言える
① 背景 ―― なぜこの文化が生まれた?
なぜ庶民にまで文化が広がった?
出版・交通・教育が発達し、安く手に入るようになったから
- 江戸は人口約100万の世界有数の大都市に。参勤交代と五街道で人とものが行き来した。
- 出版・貸本屋が発達し、庶民でも本が読めた。寺子屋で読み書きそろばんが広がる。
- 文化・文政年間(1804〜30)が中心なので化政文化という。
- 内容は皮肉・笑い・娯楽。川柳・狂歌が政治や世相を風刺した。
- 一方で幕府は寛政の改革・天保の改革で出版を統制し、作者が処罰されることもあった。
+高校化政文化=江戸中心・庶民的・皮肉と笑い・全国化。伊勢参りなどの旅と名所図会の流行が風景画の需要を支えた。学問と政治の緊張=蛮社の獄(1839)で高野長英・渡辺崋山が処罰された。
なぜ全国へ広がったか
この時代のおもな出来事
化政文化は技術(版画・出版)と交通が広げた文化。だから庶民にも全国にも届いた。
② かたちに見る ―― 建築・美術
錦絵——庶民が買えた絵
多色刷りの版画で、絵が日用品になった
- 絵画錦絵=多色刷りの版画(鈴木春信が創始)。安く大量に作れた。
- 絵画葛飾北斎『富嶽三十六景』(神奈川沖浪裏)=大胆な構図の風景画。
- 絵画歌川(安藤)広重『東海道五十三次』=旅の名所を描き、旅行熱と結びついた。
- 絵画喜多川歌麿=美人画(大首絵)/東洲斎写楽=役者絵。
- 絵画文人画=与謝蕪村・池大雅。写生画=円山応挙。西洋画=司馬江漢(銅版画)。
- 芸能歌舞伎は鶴屋南北『東海道四谷怪談』など。寄席・相撲も庶民の娯楽になった。
- 絵画浮世絵はヨーロッパの印象派(モネ・ゴッホ)に影響を与えた(ジャポニスム)。
錦絵ができるまで
浮世絵錦絵鈴木春信葛飾北斎富嶽三十六景歌川広重東海道五十三次喜多川歌麿東洲斎写楽
絵画(その他)文人画与謝蕪村池大雅円山応挙写生画司馬江漢
+高校(大学入試)錦絵は絵師・彫師・摺師の分業と版元(出版元)の資本で成り立つ=文化の商品化の典型。風景画が売れた背景には伊勢参り・名所図会の旅ブームがある。ジャポニスムは19世紀後半のヨーロッパで起きた。
錦絵は技術が文化を庶民に開いた例。北斎=富士、広重=東海道でセット暗記。
③ ことばと心 ―― 文学・学問・宗教・芸能
滑稽本・国学・蘭学
化政文化の3本柱
笑いの文学と、日本と西洋をみつめる学問
- 文学十返舎一九『東海道中膝栗毛』=旅の失敗を笑う滑稽本。式亭三馬『浮世風呂』。
- 文学滝沢(曲亭)馬琴『南総里見八犬伝』=長編の読本。勧善懲悪の物語。
- 文学与謝蕪村(絵画的な句)・小林一茶(庶民の生活感)=俳諧。
- 文学川柳・狂歌=五七五や和歌の形で世相・政治を風刺した。
- 学問国学=本居宣長『古事記伝』。仏教・儒教が入る前の日本の心を探る。→ 尊王思想へ。
- 学問蘭学=杉田玄白・前野良沢『解体新書』(1774)。伊能忠敬の日本地図、シーボルトの鳴滝塾。
- 教育寺子屋(庶民)・藩校(武士)・私塾(緒方洪庵の適塾など)が教育を広げた。
文学東海道中膝栗毛十返舎一九式亭三馬南総里見八犬伝滝沢馬琴小林一茶川柳狂歌
学問国学本居宣長古事記伝蘭学杉田玄白解体新書伊能忠敬シーボルト適塾
+高校(大学入試)国学は賀茂真淵 → 本居宣長 → 平田篤胤と続き、尊王攘夷思想の源流になる。蘭学は解体新書 → 蘭学事始(回想)→ 蛮社の獄という流れ。寺子屋の普及率は当時の世界最高水準で、明治の近代化を支えた土台として説明されることが多い。
化政の学問は国学=内を見る/蘭学=外を見る。この2つが幕末の思想と近代化の下地になる。
④ となりの時代とくらべる ―― 対比
元禄文化と化政文化はどう違う?
| 観点 | 元禄文化 | 化政文化 |
|---|
| 時期 | 17世紀末〜18世紀初 | 19世紀前半(文化・文政年間) |
| 中心地 | 上方(大阪・京都) | 江戸 |
| 担い手 | 上方の町人(富裕層) | 江戸の庶民(農村にも広がる) |
| 性格 | 活気・現実の人情 | 皮肉・笑い・娯楽 |
| 絵画 | 菱川師宣の浮世絵・尾形光琳 | 錦絵(北斎・広重・歌麿・写楽) |
| 文学 | 西鶴・芭蕉・近松 | 十返舎一九・馬琴・一茶・川柳狂歌 |
| 学問 | 古学・国文学・自然科学 | 国学(宣長)・蘭学(玄白) |
| 広がり | 上方の都市が中心 | 全国(出版・旅・寺子屋) |
中心が東へ動く
まちがえやすい!×
浮世絵の祖=菱川師宣(元禄)/錦絵=鈴木春信以降(化政)。同じ浮世絵でも段階が違う。
×
本居宣長=国学/杉田玄白=蘭学。学問の向きが正反対。
×
与謝蕪村は俳諧も文人画も残す(両方で出題される)。
出入試ではこう出る(対比の出題例)
- 北斎・広重の代表作と作者の組み合わせ。
- 記述「なぜ庶民が絵を買えるようになったか」→ 多色刷りの版画で安く大量に作れたから。
- 元禄と化政の人物を混ぜた仕分け(上方/江戸、17世紀/19世紀)。
元禄=上方・町人・現実、化政=江戸・庶民・皮肉。この6語で必ず切れる。
化政文化=江戸の庶民が担い、出版と交通で全国に広がった文化。錦絵・国学・蘭学が三本柱。
要入試で問われる急所
- 北斎=富嶽三十六景/広重=東海道五十三次の写真判別。
- 記述「化政文化の特徴」→ 江戸中心・庶民的・皮肉と笑い。
- 本居宣長『古事記伝』=国学/杉田玄白『解体新書』=蘭学。
- 寺子屋の普及が識字率を高め、のちの近代化を支えたこと。
次この文化はどこへつながる?
- 開国と明治維新で西洋文明が一気に入る=文明開化(→ 文化史⑯)。
- 浮世絵はヨーロッパの印象派に影響を与える(ジャポニスム)。
- 国学の尊王思想は幕末の尊王攘夷運動につながる。
この回の重要語(これだけは言えるように)
浮世絵・文学錦絵葛飾北斎富嶽三十六景歌川広重東海道五十三次喜多川歌麿東洲斎写楽東海道中膝栗毛南総里見八犬伝小林一茶
学問・教育国学本居宣長古事記伝蘭学杉田玄白解体新書伊能忠敬寺子屋藩校
Q一問一答(答えは右)
1化政文化の中心となった都市は?江戸
2多色刷りの浮世絵版画を何という?錦絵
3『富嶽三十六景』を描いたのは?葛飾北斎
4『東海道五十三次』を描いたのは?歌川(安藤)広重
5美人画で知られる浮世絵師は?喜多川歌麿
6役者絵で知られる浮世絵師は?東洲斎写楽
7『東海道中膝栗毛』の作者は?十返舎一九
8『南総里見八犬伝』の作者は?滝沢(曲亭)馬琴
9『古事記伝』を著したのは?本居宣長
10その学問を何という?国学
11『解体新書』を訳したのは?杉田玄白・前野良沢
12庶民の子が学んだ教育機関は?寺子屋